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楽しい毎日と、あとちょっと食のお話

ろびんのお部屋です。管理栄養士なので、栄養関係の話を中心にして、仕事の話、家族の話、読んだ本の感想を書いていきます。

インターネットで友人と話ができた日

はてなインターネット文学賞「わたしとインターネット」

 

主人が情報システム関係の仕事をしており、家でもパソコンを買って、インターネットが普及する前からパソコン通信を使っていました。

おかげでわたしは、インターネットが使われるようになった当初から使っていました。

いろいろなサイトを見て、パソコンで世界とつながることができるのを目の当たりにして、これはとんでもなくすごいことなのではないかと感じていました。

それでも、人の作ったサイトを見て情報を得るだけで、自分から発信しようとは思っていませんでした。

それが大きく変わったのは、大学時代の友人が、自分のホームページを作ったので見に来てほしいというメールをくれた時です。

2003年5月、18年前のことでした。

友人がホームページで伝えたかったこと

彼女は、最後に会ってから10年以上、年賀状以外の交流がなくなっていました。

彼女から主人あてにメールが来て、主人が「○○さんからメールが来たけど、ちょっと深刻な感じで」というので、見せてもらいました。

このころは主人しかメールをしていなかったのです。

見せてもらったら、彼女がガンを発症したという内容でした。

おとうさんがガンでなくなったということは聞いていましたが、本人までもガンになってしまうなんて。

メールには、「何か外に向かって発信できる手段はないかと考えて、ホームページを公開することにしました」とあり、ホームページのアドレスがありました。

「これ、なんだかわかる?」と主人が見せてくれた画面には、真ん中で静かに踊るバレリーナがいて、見出しは彼女が作ったというホームページのタイトルでした。

中には彼女の子どもの頃の思い出や、ガンと診断されてからの怒りと闘病の様子、創作のお話などがたくさん詰まっていました。

「彼女らしいよね」一緒に見ている主人がつぶやきます。

「うん、そうだね… 本当に彼女らしい」

とても繊細で、でも自分を曲げず、時にとんでもない強さを見せる彼女の姿が、そこには見えていました。

「たぶん、彼女はこの事態をとんでもなく理不尽だと考えている。だから世界に向かって自分の今の状況を訴えたくて書いているんだろうね」

「負けず嫌いだからなあ…」

彼女は自分がこんなに早く消えてしまうかもしれないことを、どうしても受け入れられないのでしょう。

あたりまえのことです。

誰だってそうでしょう。

彼女はそれを受け入れてしまうだけでいることができなくて、世界に向かって爪を立てて、引きずりこまれそうな自分を支えたかったのだと思います。

「ほんとに彼女らしい」

もっとそばにいたならば。

誰か見てあげられる人が近くにいたならば。

でも、彼女は後悔はもうしていません。

今、自分ができることを考えて、しようとしているのです。

「まあ、そういうことだ」と主人は言いました。

 

返歌

それから2週間後、主人がわたしに言いました。

「これ、なんだかわかる?」

主人が私たちのホームページを作ってくれたのです。

有言実行の人なんです、主人は。惚れ直しました。

 

内容は、エッセイやイラスト、読んだ本の感想や旅行の記録、日記などでした。

さっそく彼女にメールを送り、相互リンクなどのお願いをしたら、とても喜んでくれて、主人の設置した掲示板にも書き込みに来てくれました。

チャットもできるようになったので、何度もリアルタイムの会話をして、時には何時間も話し込むこともありました。

インターネットのおかげで、住んでいるところは数百キロ離れており、彼女は外に出ることができないのに、学生時代と同じような深い交流をすることができました。

まるで彼女がすぐそばにいるように会話をして、別れを惜しみながら次に会うことを約束して。

彼女とこんな時間を過ごせたのは、インターネットという技術があって、初めてなしえたことです。

たとえ地球の裏側にいても、世界中のあらゆる人と会うことができ、対話することができる。

これこそがインターネットが実現した、もっとも素晴らしいことだと思います。

空電の中に

彼女は、闘病の末に亡くなりました。

最後の数年間に、彼女と語らい、励ますことができたのは、わたしにとってとんでもなく嬉しい記憶です。

これを実現させてくれたインターネットは、わたしにとって、なくてはならないものです。

そして時々思うのですが、彼女の魂は今もインターネットの中にいるのかもしれません。

肉体は消えても、この電子の海の中には、彼女の残した空電が今もさまよっていて、

「お久しぶりです。元気でした?」

などと語りかけてくるのではないかと、ついつい少女のような妄想をしてしまうのです。

私は本当に、本当にあなたともう一度お話がしたいのです。