「新生活」という言葉は、とてもうきうきした気分にさせてくれます。
新しいことが始まるとき、これまでとは違った世界が開けるとき、初めて一人暮らしを始めるとき。
半面、初めての暮らしは、これまで経験したことのない不安や重圧も運んできます。
新しい学校や職場が思った以上につらいことが多かったりすると、新生活に期待していたはずの前に進もうとする気持ちが損なわれ、時にはすべて投げ出したてしまいたくなってしまいます。
そのようなときに新生活を救ってくれるのが、「もうひとつの場所」です。
我が家の事例
子どもが中学校の時に、通っていた公文の先生が言ってくれたのですが、
「〇〇くんはとてもお父さんを尊敬しているんですけれど、家と学校以外にもう一ヶ所、居場所があるといいと思うんです」
「?父親が厳しすぎるっていうことでしょうか?」
「いえ、お父さんは今のままでいいと思うんです。本当に厳しくてきつかったら、第三者であるわたしに『助けて信号』を出してきます。問題なのは、ご両親に気に入ってもらいたくて、がんばりすぎてしまうことなんです」
「ああ、わかりますね」
「学校と家だけが居場所だと、その助けて信号を出せる場所が作りにくいんです。そういう子はけっこういて、うちでも相談にのったりしたことがあります。いい子ほど抱え込んじゃうんですよ」
「なるほど…」
「メインの生活の場所以外に、メインの場所とつながっていないところがあれば、ガス抜きになったり、いざという時に逃げ込めるんです」
このアドバイスはとても考えさせてくれました。
主人とも話をして、子どもとの付き合い方をいろいろと考えてみました。
さいわい、主人は人と話をするのが好きで、子どもたちとも私より深くコミュニケーションをとっていたので、おかしなことにはなりませんでした。
わたしが落ち込んでいるときも、主人はすぐに気が付いて、さりげなく、わざとらしく、こちらが傷つかないようにアプローチしてくれます。
あまりに距離感の取り方がうまいので、わたしが逃げ込む場所は主人のところだけあればいい感じで… てへっ。
冗談はさておき、主人がとても真剣に子供に向き合ってくれたので、悲劇は起こらずに済みました。
公文の先生はとてもいい先生で、勉強以外の部分でもこんなアドバイスをもらえて、本当に助かりました。
もう一つの場所
学校と家の往復や、職場と家の往復だと、煮詰まり、追い詰められたときに、いつもいる場所に原因があった時に逃げられる場所がありません。
部活動をしたり、サークル活動に参加するのにはその逃げ場を確保する意味もあります。
部活動に学年やクラスの違う子がいれば、そこで息がつけます。
職場と関係のない人が大勢いるサークルにいれば、愚痴を言って発散することもできます。
でも、これもなかなか難しいのはわかります。
リアルでそういう場所が作りにくければ、SNSやブログで話のできる場所を見つけるのも有効です。
もう一つの場所としてのSNS
FacebookやTwitter、LINEなど、たくさんのSNSがあります。
自分と趣味や感覚の合う人を探して、その人とコミュニケーションが取れれば、そこにも一つの居場所を作ることができます。
でも、顔の見えないSNSでは、自分の発信にかなり気をつけないと、すぐに相手が引いてしまってブロックされたりします。
居場所としてのSNSを維持するためには、悪いことを一切言わず、人を攻撃せず、必要以上になれなれしくせず、行儀よく、品よく、優しい人でいなければいけません。
うーん、これって場所を確保できても、人によってはかえってストレスが溜まってしまうかもしれません。
インターネット内で居場所を作るのはけっこう大変かもしれません。
バーチャルもう一つの場所
ここまでで絶体絶命に追い詰められた方に朗報です。
参入の敷居が圧倒的に低く、うまくはまればもう一つ、二つ、三つ以上の居場所を確保できる方法があるのです。
そんなバカなとおっしゃいますか。
本当です。
わたしはこれで10くらいの居場所を確保しています。
例えば銀河帝国の興亡を眺めていたり、
イギリスの忘れられた花園がよみがえるのを見たり、
19世紀のフランスで怪盗紳士の足取りを追ったり、
異界の12国で国が建ち、滅んでゆくのを見、
幻夢境カダスに遊んだり、
ヤナギが原で連れ去られてしまう恐怖におびえたり、
祖母の形見の着物が起こす不思議を受け入れたり、
スイスのサナトリウムで終わりのないモラトリアムを楽しんだり。
もうおわかりでしょう。
本の世界です。
本の世界は、没入すると、本当にその時代、その場所にいる自分を感じることができます。
映画やマンガではそこまでの没入感は得られません。
今は体力が続かなくなってできなくなってしまいましたが、若いころは読み始めた本が面白いと、そのまま次の日が明けるまで読みふけったこともありました。
現実でイヤなことがあっても、家に帰れば、または公園で本を開けば別の世界にシフトできます。
ネロ・ウルフの部下のアーチーの行動を見ていると、どんな行動が自分にとって心地よいかを知ることができ、現実にそれをあてはめられないかを考えたり、不如意な状況をやり過ごす方策を思いついたりできます。
いろいろな解決方法、考え方を知ることで、あなたの世界を容易に広げることができます。
リアルよりイヤな世界もあれば、どうしても住んでみたい世界もあります。
永遠の本の世界に住むことはできませんが、リアルな世界の解釈をし直すことはできるのです。
追いつめられたときに
追い詰められているときに、まじめな人は「逃げちゃだめだ」などとバカなことを考えて、いよいよ自分を追いつめてしまいます。
死にたいなんて考えるようになったら、逃げましょう。
自分がダメでうまくいかないことがあっても、死ななければならないほどのことは一つもありません。
誰かによく思われるために、死ぬほどがんばるのはやめましょう、
誰かに言われたから、こうしなければならないと思うのはやめましょう。
追い詰められたときに、ちょっと踏みとどまれる環境を維持するために、もう一つの場所を確保しましょう。
嵐はいずれ去り、陽はまたさしてきます。
これは私が保証するので、逃げるべき時には全力で逃げられるように、メインから外れた場所に少しの間、身をひそめましょう。